教室を見学する阪井一仁君(左)と岡田悠也君(右)

JICA(独立行政法人国際協力機構)が運営する「JICA地球ひろば」では、地球規模の課題や、開発途上国とのつながりを、さまざまな形で体感できる。今回は、「世界の幸せと悲しみ 人間の安全保障展」(2017年1月8日まで開催)を2人の高校生記者が訪問した。

7つのゾーンを巡り体験型の展示で理解

人間の安全保障という言葉を聞いたことがあるだろうか? これは「人々が『恐怖』や『欠乏』から解き放たれ、安心して生存でき、人間らしい生活ができる状況をつくれること」を指している。JICA地球ひろばの展示は、「人間の安全保障」という一見、難しそうな概念を「見て」「聞いて」「さわって」体験しながら理解が深められるようなしかけになっている。案内をするのは「地球案内人」と呼ばれるガイド。彼らは青年海外協力隊として開発途上国での活動経験を持つスタッフだ。彼らが、自らの国際協力の体験を交えながら、ガイドをすることで、展示内容をより深く理解できるのも、魅力の1つ。今回はメキシコでの活動経験を持つ岸谷加奈子さんが案内してくれた。
 展示は、7つのテーマ「貧困、保健医療、教育、水の問題、紛争、児童労働、相互依存」で構成され、世界が抱えている問題をわかりやすくまとめている。

たとえば「教育」ゾーンでは、ブルキナファソ(西アフリカ)の小学校の教室の様子が再現されている。鉛筆やノート、消しゴムもなく、小さな黒板をノート代わりに使っている。さらに日本の算数で使われているおはじきの代わりに、拾った瓶のふたを使用。高校生記者が驚いたのは、先生が黒板に書いた簡単な分数の計算式だ。「そう、間違っているんです」と岸谷さん。「先生が足りず、中には教育をきちんと受けていない先生もいます。」。質の高い教育のためには、教材だけでなく先生自身に正しい知識が必要であることが分かる。

さらに2人は、識字の大切さも学ぶ。「あなたはスワヒリ語で話す国に生まれましたが、学校に行くことができず文字の読み書きができません。病気の妹にこの3つの薬品のうち、どれを飲ませますか?」という質問とともに3つのビンを渡された2人。ラベルにはスワヒリ語で薬品名が書かれている。2人が選んだ薬は、それぞれ「熱冷まし」と「下痢止め」だった。残った1つが実は「農薬」だったと聞き、絶句。高校生記者は貧困や学校の問題などさまざまな原因で、学校に行けず、読み書きができないと、命の危険にも関わるという現実に、気づいた。また、貧困と識字率の低さは深いつながりがあり、貧困から抜け出せない負の連鎖を改善するために、日本がさまざまな教育協力をしていることも学んだ。

「水」のゾーンでは一滴の重さを体感

水の問題を考えるゾーンで高校生記者は、子どもたちが運んでいる水の重さを体感してみる。17リットルの水が入ったバケツは、想像していた以上に重い。途上国では、水汲みのために学校に行けない子どもも多く、また折角運んできた水に病原菌などがひそんでおり、それによる病気で亡くなる子どもも多い。途上国の子どもたちの生活の一部を実際に体験してみることで、途上国の問題が、日常から離れた、遠い世界のことではなく、自分事として考えられるきっかけとなる。
 7つのゾーンを見終える頃には、世界中のあちらこちらで人としての権利が侵され、十分な「人間の安全保障」が達成されていないことに気づいていた。

バケツを持ち上げる高校生記者

「自分たちの基準で貧困を考えても、本当に世界の貧困を理解することはできないと知りました」という高校生記者の言葉に、地球ひろばの体感型展示を通じて国際協力の意義・必要性を深く理解できたことがうかがえた。岸谷さんは「来訪する高校生の中には、『自分は日本に生まれてよかった』という感想で終わってしまう人もいます。でも、幸せとは何なのか、豊かさとは何なのか、一歩先を考え、より良い世界に向けて、身近なことから取り組むきっかけにしてほしい」と話してくれた。
 JICA地球ひろばでは、団体向けに、展示の案内に加え、青年海外協力隊員経験者などによる活動体験談や開発教育教材を使ったワークショップを組み合わせた訪問プログラムを実施している。修学旅行や社会科見学、総合学習などで是非、一度足を運んでほしい。

■ JICA地球ひろば(入館無料)
住所/東京都新宿区市谷本村町10-5 JICA市ヶ谷ビル※JR「市ヶ谷駅」より徒歩10分

フリーダイヤル/0120-767278

開館時間/10:00~20:00(土・日・祝日/18:00閉館)

体験ゾーン休館日/*第1・第3月曜日、年末年始(*2017年4月より、毎月第1・第3日曜日に変更)
※世界の料理が楽しめる「J’s Café」も営業中(日・祝日は休業)
※国際協力に関するイベント・セミナー等の情報は、「地球ひろば」のメルマガで配信中!

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■取材を終えて 岡田悠也くん
 開発援助の視点で考えると、発展途上国の側の私たちが開発途上国の人たちを恐怖と絶望から守ってあげると捉えがちですが、じつは自分たちの側の恐怖と絶望を取り除くことにもつながる、そういうことをあらためて学ばせてもらうことができました。

■取材を終えて 阪井一仁くん
 今まで自分の見ていた貧困の常識は、自分たちの基準で考えていたものに過ぎないと知りました。国際教育という視点でも、本当に相手を理解するためには、現地にいかないとわからないのかもしれません。移民問題も、当事者と受け入れる側の両方の国のことを知らないといけないのでしょう。

 

JICAの全国の国内拠点では、開発教育支援事業他、国際協力に関する様々なイベントやセミナーも実施している。是非、一度足を運んでください。