最近、憲法改正をめぐる議論が盛んに行われている。でも正直なところ、ピンとこない高校生もいるのではないだろうか。今年、日本国憲法は施行から70年を迎えたが、そもそも憲法って何だろう。そんな素朴な疑問に東京学芸大学の斎藤一久准教授(憲法学)がわかりやすく答えてくれた。(平野さゆみ)

 

国民と国家との約束

──そもそも憲法とは何ですか。

国の政治の基本を定めるもので、国民の権利や国家の統治に関する規定です。憲法の源流は、1215年にイギリスで制定されたマグナ・カルタ。国王が勝手に国民に課税したり、理由なく国民を逮捕したりできないよう、国王の権限を縛るために定められました。今の日本の憲法も根本的な考え方は同じです。

 日本国憲法には、国家は国民の生きる権利を確保するとか、国民の自由を侵害しないといった、「国家がやるべきことと、やってはいけないこと」が定められています。憲法は、いわば国民と国家の「約束」なのです。

──憲法は国家権力を制限するためのものなのですね。

そうです。だから、憲法を守らなければならないのは国家、すなわち国会議員や公務員なのです。

 皆さんの中には「国民は憲法を守らなければならない」と思っている人もいるでしょう。それは、憲法に「勤労、納税、教育を受けさせる義務」という国民の三大義務が定められているからかもしれませんね。でも、働かないからという理由で処罰された人はいません。義務といっても、国民に対し「働いた方がいいですよ」という心構えを説くようなもの。もっとも、国民が誰も働かなくなったら、国が立ちゆかなくなってしまいますが。

 

 

法律よりも格上

──憲法と法律の違いは。

憲法は「最高法規」とされ、法律よりも格が上。質も全然違います。法律は、憲法に定められたことを具体化するために作られるものです。

 例えば、憲法に規定された「国民の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を実現しているのが生活保護法です。法律は国民を縛るものというイメージが強いかもしれませんが、それだけでもないのです。なお、全ての法律は憲法の規定に違反してはいけないと定められています。

──日本国憲法の特徴は。

100条程度でコンパクトに、しかも一つにまとまっていることです。例えばイギリスでは、いまだにマグナ・カルタなど何百年も前に制定されたものも、今の憲法を構成する一つとして認められているので、まとまった文章になっていません。また、今まで1回も改正されていないという点も珍しいですね。

──憲法は高校生の生活にどう関わっているのでしょうか。

国公立の小・中学校の授業料が無料なのは、憲法で「義務教育は、これを無償とする」と定められているからです。また、皆さんがインターネットやSNSで自由に発言できたり、さまざまな情報にアクセスできたりするのは、憲法によって「表現の自由」や「知る権利」が保障されているからです。

 ただ、平穏な毎日を送っていると、「ああ、これは憲法のおかげなんだ」と実感することはほとんどないと思います。なぜなら、私たちは憲法が保障している自由や権利といったものを、まるで空気のように、当たり前のものだと思っているからです。むしろ、それらが侵害されたときに、「憲法って大事なんだ」と気づくのです。

弱者を守る味方

──私たちは憲法をどのようなものと捉えればよいでしょうか。

私たちは考え方も感じ方も一人一人違います。そうした多様な人間が共生する土台のような存在が憲法です。そしてもう一つ言えるのは、憲法は弱者の味方だということ。国会で多数決によって制定される法律は、いわば多数派の意見の集約です。でも、憲法の下では、多数決で99対1になったからといって、1の人の権利や自由を奪うことはできません。

 今、日本では憲法についてさまざまな議論がなされています。戦争の放棄を定めた9条が話題になることが多いですが、ほかにもいろんな条文があるんですよ。ぜひ、日本のことを考えるきっかけの一つとして、憲法について学んでほしいと思います。

【斎藤一久准教授】
さいとう・かずひさ 2004年早稲田大学大学院法学研究科博士課程後期課程満期退学。早稲田大学助手等を経て2008年より現職。

「高校生のための憲法入門」斎藤一久編著(三省堂、税込み1296円)

高校生に「憲法って面白い」と感じてもらえるように、具体的な事例を数多く交え、憲法について分かりやすく説明した入門書。「いじめは人権侵害ではない?」から始まり、校則、プライバシー、内申書、少年の実名報道といった興味深いテーマを取り上げながら、憲法の条項を26章にわたって解説している。