松山 泰 講師

自治医科大学 医学部医学科 松山 泰 講師

「現在私が担当している専門の『総合診療』とは、卒業と同時に地域が求める医療を的確に把握し提供できると同時に、第一線の医療現場でリーダーとして活躍できる、そのような能力を併せ持つ医師を育てる分野といえます」
 自治医科大学を卒業し、へき地診療から大学病院の臨床業務までさまざまな勤務環境で、診療科を問わずに多くの患者さんを診てきた松山泰講師は、自身の専門分野についてこう説明する。

“地域が求める医療を的確に把握し提供できる”とは?
 「時代に即した最新の医学・医療に関する知識はもちろんですが、加えて私の経験からもいえるとても大切な“+α”の部分を担っている医師といえるでしょう」

患者一人ひとりの状況を考慮して最適な医療を提供

例えば、最近タレントの磯野貴理子さんが発症して話題を呼んだ「脳梗塞」という病気。この病気は血液の塊=血栓が脳の血管につまって起こるもの。命が助かった場合でも後遺症で介護が必要となるケースが多く、福祉の面でも大きな課題が伴う病気といえる。

「もし救急で搬送されてきた患者さんが検査の結果、脳梗塞であることが分かれば最新の治療ガイドラインに沿って的確な治療を行い、必要となれば作業療法士や理学療法士とも連携をとりながら、後遺症を軽減するためのリハビリプログラムも立案します。ところが……。」

都会でもそうだが、例えば卒業生が赴く地域では住んでいる人たちの生活環境は、実にさまざま。「家族構成はどうなのか? 高齢なのに一人暮らしかも知れません。家はバリアフリーになっているのか? 不自由な体なのに病院まで通院できるのか? つまり一人ひとり状況は違い、効果的なリハビリを行うための環境が整っているとは限りません」

そこで、退院してからどのような生活を送れるのかを考慮し、リハビリも通院がよいのか自宅がよいのか……。患者さんの生活環境と先々の生活までも見据えて、必要ならば訪問看護師やソーシャルワーカーといった、関連する医療・福祉スタッフとも連携しながら、最適な最終ゴールを設定する。

医療制度に貢献したり国際的な視野を持つ臨床医も

「こうした考え方は米国立科学アカデミーが『患者さんの抱える問題の大部分に対処し、かつ継続的なパートナーシップを築き、家族及び地域という枠組みの中で責任を持って診療する臨床医によって提供される、総合性と受診のしやすさを特徴とする医療』と定義しているプライマリー・ケア(P・C)をベースにしたものです」
 自治医科大学の卒業生は創立以来、この考え方に基づいて全国各地の地域医療に貢献してきた。

「患者さんを親身に考え診療する一流の技術を持った臨床医に限らず、例えば私の同期生のようなケースもあります」と松山講師。死亡率の高いお年寄りの肺炎を防ぐ目的で、今年から65歳以上の高齢者を対象に、定期接種が行われるようになった肺炎球菌ワクチン。「この有効性について、実際にへき地医療に携わりながら患者さんから生のデータを取得し、その効果を証明し国を動かしたのが私の同級生でした」。その他にも卒業生には行政と連携して予防医学や福祉分野に貢献したり、世界保健機関(WHO)で活躍したり……。多彩な人材が生まれている。

「医学・医療に限らず、行政や福祉分野、さらには国際的な目を持った視野の広い臨床医もたくさん輩出しています。国家試験の合格率も1972年の建学以来トップレベル。総合的な医療を行える“+α”を持った医師を志したい──。そのような意欲的な高校生を待っています」

先輩に聞く
 

●渡邉和樹さん(4年) 新潟・高田北城高等学校出身
 地域医療に貢献出来たら──。そんな思いで地元の国立大学よりも自治医科大学を志望しました。入学して驚いたのは1年次から、地域医療の早期体験実習やプライマリー・ケアに関する問題解決型学習があること。講義も充実していますが、何よりも実習が豊富で奥が深いことが特徴です。学生も全国から集まっていますし、交流を通じて深いつながりも期待できます。

 
 

●津野桃里さん(3年) 高知・土佐塾高等学校出身
 幼い時、妹が肺炎にかかったのですが近所に病院がなく車で離れた病院まで行かなくてはならないことがありました。どうしてまわりに診てくれる病院がないのだろうと疑問に思った経験から、地域医療に貢献したいと思い、自治医科大学を志望しました。入ってみると全寮制ということもあり、全国の人たちと学び合えるベストの環境が整っていました。現在は3年生ですが充実した医学生生活を送っています。