山田拓司准教授

[東京工業大学 生命理工学院 黒川・中島・山田研究室 山田拓司准教授]

微生物の遺伝子を
コンピュータで解析する

「地球上のすべての生物を凝縮すると炭素の重量として5000億tの重さになると言われています。その重さの約半分を占めているのが実は微生物。見えないけど、ここにもいるんです…」と腕の表面を指差しながら話すのは山田拓司准教授だ。ヒトには1000種、100兆細胞を超える細菌が共生しているが、その細菌の全貌は分からない部分が多いのだという。

肉眼では見えない微生物の場合、従来は培養して数を増やしながら調べるしかなかったが、「ほとんどが培養困難な微生物なんです」と山田准教授。しかし近年、培養困難な微生物を調べる方法が提唱され、2000年代半ば以降、一気に普及しているという。それがメタゲノム解析である。これは、環境サンプルから、そこに含まれるDNAを直接抽出し、それらを解析することで、環境内にいる微生物を明らかにするというものだ。

「遺伝子の情報量ってすごく多いんですよ。その大量の情報を、コンピュータを使って明らかにするバイオインフォマティクスが私の専門です」

研究室では、特に人の常在菌、中でも大腸に住む細菌の解析を行っている。「腸内フローラ」と呼ばれるように、ヒトの腸内にはまるで花畑のように100兆、100種とも言われる細菌が住んでいる。便を環境サンプルとして抽出して、DNA解析を行っていくのだ。主なターゲットは、大腸ガン。初期の段階から大腸の菌をモニターすることで大腸ガンへの変容を発見する。

いずれ大腸ガンをはじめ、他の病気についても、いろいろなことがわかり、治療法や薬の開発につながるかもしれないという。実際に、悪い菌のいる便をよい便と取り替えることで病気を治す「糞便移植」という治療法が、すでに実現されているというから驚きだ。

学生の作った菌を増やす
カードゲームが大人気

同研究室には4年次から所属し、複数の教員が指導にあたる。1〜2カ月は情報解析の技術をパソコン操作と共にしっかり習得し、それぞれテーマを決めて研究に取り組むことになる。

だが、山田准教授は「1年生からウェルカム」という。授業を通じて、興味をもった学生や、先輩に連れられてくる学生などが、低学年から積極的に参加し、子ども向けの公開講座などを開く。そこでは、同研究室が学生と共に独自に開発した「バクトロイゴ」というカードゲームも登場。プレイヤーが細菌になって、自分の菌を増やしていくという4人対戦型ゲームだ。子どもたちの要望に応えて、販売も行うようになった。

また、学生たちの手によって「ヒト細菌フローラマップ」というポスターも作成。「(こうした活動は)家族でサイエンスを語り合ってもらうきっかけになればいいと取り組んでいます。学生はパワーがあるので、今後も自由にやってもらえれば」と山田准教授はニッコリ。

「微生物が見えることで、新たに見える世界があります。10年、20年先が楽しみ」と今後の展望を示す。

「大学選びのコツは、自分より優秀な人が1人でも多い大学を選ぶこと。トップに近づくための環境が大切です。それには折れない心も大事。最初は、ちっぽけな自分を感じるから。でも、全方向で一番な人なんていないですよ。それから大学はオープンな場所。気になる研究室にはぜひ足を運んでください」と最後にメッセージもくれた。

 先輩に聞く
生命理工学院生命理工学系博士課程後期1年
渡邊日佳流さん
(福岡・久留米工業高等専門学校出身)
 高専で生物応用化学の領域を学んでいました。新型シーケンサー(DNA配列の自動解読装置)を使ってゲノムを読み解く研究に憧れて本学に編入しました。現在は「ヒト皮ふに存在する細菌」を研究中。例えば、ニキビの原因となるアクネ菌。アクネゲノムを解析することで、様々なタイプがあることがわかっています。違いは何なのか? 遺伝とか、地域性とか分岐点を探ります。大学では、いろいろな分野の研究にふれられますが、生命理工学院は特に規模が大きく、選択肢の幅が広いと思います。目先の就職率にとらわれず、自分にとっておもしろいものは何かを探ることをお勧めします。

 

 

 

 

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