実習好きの大学君。2年生で取得することの多い普通旋盤の3級技能士資格を1年生で取得した(阿部理撮影)

三重県で開かれた主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に先駆け5月20、21の両日、宮城県仙台市で行われた主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議。その被災地視察の中で、仙台工業高校の大学晃希(だいがくこうき)君(3年)が自分の震災体験を語り、各国の要人らに防災対策の大切さを訴えた。
(阿部理)

英語で復興支援に感謝

大学君がスピーチを行ったのは、震災遺構として保存が決まった旧荒浜小学校の校舎前。まず英語で復興支援への感謝を述べた後、日本語で震災体験を語った。当時、大学君は同小6年生。2階まで浸水した校舎の屋上で一晩過ごし、翌日早朝に自衛隊のヘリコプターで救助されたことや、学校で行っていた避難訓練が役立ったことなどを説明した。そして最後に「仙台の経験を知ってもらうことで、世界の災害被害が少しでも減ってほしい」と訴えると、各国の要人から大きな拍手が沸き起こったという。

大学君が震災体験を大勢の前で話すのは初めて。英語の発音を外国語指導助手(ALT)に確かめてもらうなど、何度も練習を重ねて本番に臨んだ。「緊張してうまく話せないところもあったが、最後に拍手が起きてうれしかった」。特に英国のジョージ・オズボーン財務相からは「被災地で素晴らしい若者が育っていることに感銘を受けた」という称賛の声が寄せられた。

今年3月に閉校した荒浜小学校の校舎前で行われたスピーチ(右端の学生服姿が大学君=仙台財務大臣・中央銀行総裁会議フォトライブラリから)

信頼される技術者が目標

「ものづくりについて学びたい」と仙台工業高校の機械科に入学した大学君。地元企業への就職率の高さも大きな理由で、父と兄も同校の卒業生だという。

好きな授業は実習で、特に興味を持ったのが鋳造の実習だ。「鉄などの金属を溶かして目的の形状に固める鋳造は、ものづくりの根幹を支える技術。そこに大きな魅力を感じる」と目を輝かせる。卒業後の就職先は、地元に製造拠点のある鉄鋼メーカーが第1志望だ。

担任の吉岡信彦先生は「大学君は何事にも真面目に取り組む努力家タイプ。社会に出ても機械科出身というプライドを持って頑張ってほしい」と話す。

将来の目標は、信頼される技術者になること。次に日本でサミットが開催されるころには、世界の防災対策とともに、大学君の技術者としての歩みも大きく前進しているに違いない。