学校の敷地内に「ピイーッ」と力強い音が鳴り響く。音の正体は日本工業大学駒場高校SL愛好会が走らせるミニSLの汽笛だ。もくもくと煙を上げてミニSLが走り始めると、メンテナンスを終え、作業着と両手を真っ黒にした部員たちの表情が喜びにあふれた。
(文・写真 小野哲史)

貸し出し用車両をメンテナンス

同校にはかつて、ミニSLの部品を作り、組み立てる選択授業の実習があった。製作した車両はおよそ60台。その一部を、現在、全国7カ所の公共団体に貸し出している。
 SL愛好会はその実習の流れをくんだ、日本の高校で唯一ミニSLを扱う部活動だ。所有する車両の多くは3両編成で15人乗り。小さくカットした本物の石炭をボイラーで燃焼させて、蒸気の気圧を利用して平均時速8キロでのんびりと走る。週4回の活動日は貸し出し中の車両のメンテナンスや試運転を繰り返す。12人の会員のほとんどがSLファンだ。

部品を自作することも

ミニSLはとてもデリケートな乗り物のため、整備には微妙なさじ加減を要する。会長の鯰江亮太君(3年)は「見た目は同じ部品でも、1台1台に合う、合わないがあって、それを見極めるのが難しい」と話す。植木悟君(2年)は「工具の使い方など、入部した当初は覚えることが多くて苦労しました」と語る。部品の在庫を切らした時は工具を使い、自分たちで作ることもあるそうだ。
 日々の活動以外に、夏のオープンキャンパスや秋の文化祭、地域のお祭りといったイベントでもミニSLを走らせる。子どもたちはもちろん、大人も楽しそうに乗ってくれる。植木君は「自分が点検したミニSLが元気良く動いてくれるとうれしい」と笑顔で話した。
 顧問の山崎隆央先生は「SLのメンテナンスをきちんと期日までに行い、うまく動いたという達成感を経験して、自分の成長につなげてほしい」と話す。ミニSLは、たくさんの乗客、そして部員たちに幸せな時間を運んでいる。

 

【写真説明】
上:和気あいあいとしたSL愛好会。日本の高校で唯一ミニSLを扱っている。
右:本物のSLさながらにボイラーで石炭を燃焼させ、発生した蒸気の圧力で走行させる。