【法政大学生命科学部生命機能学科 植物医科学専修 鍵和田 聡 専任講師 研究室

広く総合科学を学ぶ日本初の植物医科学専修

2008年4月、日本で唯一「植物医科学」を専門に学べる専修が誕生した。植物医科学とは、植物の病気を診断したり、治療したりする分野で、主に「植物のお医者さん」を育成することに主眼を置く。

「植物医科学専修が設置された背景には、植物病理学や応用昆虫学といった学問分野がある中、既存の学びが細分化されてしまい、総合的に植物の病気や不調を診断できる人材がいなくなってきているという事情があります。それに対し、広い知識・技術で植物を診断できる人材を育成しようというのが植物医科学専修です」と話すのは、同専修で教鞭を取る鍵和田先生だ。

そのための一歩として、植物医科学専修では、1年次から実験・実習を重視し、まずは植物を自分で育成することからスタートする。

「ポットに土を入れ、種から植物を育て管理することで、健康な植物がどういうものなのか学ぶと同時に、自然発生する簡単な植物病害を観察します」

2年次になると、農薬やそれ以外の防除技術を学ぶ。その効果を確かめたり、植物の残留農薬の量を測ったりするなど応用的な実習に発展させるのだ。専門実験では、先端機器を使用し、病原体の遺伝子解析も行う。

「生命の情報となっている遺伝子やタンパク質を扱う実習を設け、診断手法へと応用します。また、遺伝子組換え技術についても学べます」

実習は研究室にこもるだけではない。実社会とのつながりをもつために、公的研究機関との共同研究や造園企業、農家、公園などでのインターンシップも行われ、「植物を守る」という仕事の実際を体感することができる。実習を重んじる理由について、鍵和田先生はこう語る。

「植物医科学は総合科学です。実際に植物の健康を診断する力の修得に主眼を置いているので、座学にとどまらず、植物に触れる機会を多く設けているのです」

身近な植物の病害予防から世界の食糧問題の改善まで

実体験と座学を複合的に学んだ後、3年次後期から研究室に所属し、それぞれの研究テーマで卒業研究・論文に臨む。研究の手法を学ぶ過程で、プレゼン能力や文章の作成能力も磨かれるという。

また、国家資格である技術士補(農業部門)を在学中に取得することを目指した授業や、所定科目を履修し申請をすることで樹木医補、自然再生士補といった資格取得が可能になるなど、各種資格試験、公務員試験などのバックアップ体制も充実している。

進路は植物医科学関連企業を中心に、学んだ知識が結びつくものが多い。また、企業の研究職を目標とする学生は修士課程に進む。現在約3、4割の学生が大学院へ進学するという。

「植物の最も重要な役割は食糧。私はトマト黄化えそウイルスという海外からの侵入病害を研究していますが、こうした病気を治療できれば、これまで破棄されていた食糧が利用できるようになります。これは、日本だけの問題ではなく、飢餓に困っている国の食糧生産にも貢献できます」

海外でも学問の細分化が進み、その反動で植物医科学のような総合科学分野がトレンドとなりつつあるという。そんな植物医科学に関心がある高校生に鍵和田先生がメッセージをくれた。

「身近な植物に興味をもつことはもちろんですが、社会や科学など幅広い知識を見につけると、後々役に立ちます。植物を社会に役立てたい、そういう思いのある人はぜひ我々の研究に参加してください」