優秀賞

ホームレス・ジェントルマン

渋谷教育学園幕張高等学校 1年 冨永 康介

 

僕は昨夏、サマースクールで訪れたイギリスである紳士に出会った。イギリスはクリーンな街並の国というイメージがあった。ところがクラスメートのアシムと街中のアーケードを歩いているとそこには多くのホームレスの人々がいた。物乞いをされたことのなかった僕はお金を恵んでくれと訴えてくる人にどう反応すれば良いか分からず、困り果ててしまった。一方でアシムは物乞いをする多くの人に小銭を渡していた。呆気にとられる僕に向かってアシムはこう言った。

「知っていると思うけど僕はイスラム教徒。喜捨するのは基本的な教えの一つなんだ。君は将来世界の人々を幸せにしたいと言っていたよね。なのにこの程度のことで驚くなんて君の脳内地球儀は小さいし不正確だな。」

彼の口調は冗談めかしたものだったが、その言葉は僕の心に痛烈に響いた。世界の現状を全然知らないのに世界の人々を幸せにしたいという自分が恥ずかしかった。だがそんなアシムもある老人男性に喜捨を断られた。

「俺は君たちのお金を受け取らない。その代わり君たちはこの小銭を将来もっとビッグなことに使って俺の世代を世界最後のホームレスにしてくれ。」

最近になってやっとその男性が言いたかったことが分かった気がする。彼こそが紳士だ。サマースクールやいろんな大会を通じて世界四大陸に知り合いができた僕は、それから多くの外国人と話す機会ができた。そこで僕は気づいた。世界には一度も学校に行ったことのない人がたくさんいる。その人たちは幼い頃から働き手や奴隷として労働したり、孤児になってしまったり、あるいは自らの命を守るために兵士として生きたりしている。その一方で日本人は、9年間もの教育が義務化されている。その先も高校、大学等の充実した教育環境がある。学校で習った知識をもとにこの世界の問題を知ることができる。だから世界に何が必要か考えることもできる。この恵まれた環境にいるからこそできることが何かあるはずだ。募金や寄付は良い支援方法だ。でも、恵まれた環境にいる以上、苦難の原因を考え、解決するべきだ。あの紳士の言ったビッグなこととは原因を解決することだと思う。

だから僕は模擬国連を始めた。全世界について調べる必要があるため世界を知ることができる。会議のたびに担当国について調べていくと、今まで持っていたイメージが偏見だったことに気づかされ、頭の中の間違いだらけの地球儀が少しずつ大きく、正確になっていくのが分かる。そして当日はより良い世界のために話し合って決議をする。また、会議が終わってもその国に親近感が湧き、その国についてもっと知りたくなる。

もちろん、所詮はより良い世界を作る机上の空論だという見方もある。なぜなら、僕たち高校生がいくら世界について調べ、世界について議論しても、実際の世界は変わらないからだ。苦しむ人を救うという決議になっても、彼らの苦しみは一切変わらない。でも、僕は未来の人々のために何ができるか考えたい。僕と違って生きることに必死な人々に対して何ができるか。彼らをただかわいそうだと思っていくら寄付しても、彼らの苦難の本質的な原因はなかなか解決されないだろう。目の前で苦しむ人を一時的に「助ける」より、時間をかけてでも原因を解決することでもう二度と助けを必要としないようにしろ、とあのホームレスの紳士は訴えていたのだ。

僕は模擬国連や海外研修、ボランティアなどを通して世界の実情を知ることで将来、彼らがなぜ苦しんでいるかを考え、解決し、彼らを幸せにしたい。もちろん今ある問題を解決するのは大事なこと。でも今の高校生が向き合うのは未来の地球。いつどんな問題に直面するか分からない。僕たちの世代であの紳士の希望を叶えるために、僕は今一生懸命勉強して、世界に関心を持つことで、脳内地球儀を大きく、正確なものにしたい。

 

JICA国際協力中学生・高校生エッセイコンテストの募集要項はコチラ