松尾七重教授

[千葉大学 教育学部 松尾七重教授]

松尾教授が専門とする『数学教育学』は、小中学校の教員養成課程のうち、算数科、数学科を選修する学生たちが学ぶ。算数・数学をなぜ指導するのか、教科の内容をどう教えるか、教えた結果をどう評価するのか等を研究する学問だ。松尾教授は、「算数・数学の能力や学習意欲を引き出すにはどうしたらいいのかを考えるだけでなく、指導を通して、生徒たちが生きていくために大切な思考力や人間関係能力等を育成するにはどうしたらいいのか考えることがとても大切です」と説く。

かつては、数学研究者が、算数・数学の教員を目指す学生を指導できるとされてきた。「でも1990年頃から、数学の研究者と数学教育の研究者は明確に区別されて位置づけられるようになってきたのです。そういう意味では、比較的新しい学問分野でもあります」と松尾教授は付け加える。

松尾教授の授業では、授業とは何かといった基礎的なことを講義形式で学ぶことからスタート。PISA(国際的な生徒の学習到達度調査)の結果などから日本の子どもたちの課題をどう解決していけばよいか等、数学教育に関するディスカッションも行っている。

1年生から模擬授業を体験し、学生同士で切磋琢磨

そして何より、松尾教授が重視しているのが模擬授業だ。松尾教授の授業を選択した1年生全員が15分間の模擬授業に取り組む。「内容はまだまだですが、とにかく教壇に立って、一人で何かやってみる経験が大切です」と松尾教授は話す。

2〜3年生になると、4〜5人のグループで45分間の模擬授業を作り上げる。教師役の学生たちは『自分の授業』を作るためにディスカッションを重ね、生徒役の学生たちも教員役を喜ばせたり困らせたりするいろいろな質問を準備する。模擬授業終了後の評価には、学生たちも加わり、アドバイスし合う。改善が必要な場合は、模擬授業のやり直しもあるそうだ。松尾教授は、「一人の学生が行える授業が15分や45分だったとしても、同級生の模擬授業に参加し評価することで、より多くのケースを学べるはず」と、狙いを話す。

こうした模擬授業のほか、附属の小中学校での授業見学や先輩たちの教育実習見学を重ねてから3年次の教育実習本番に臨めるため、学生の自信にもつながるようだ。

卒業論文の準備は、3年生の1月頃から。文献の読み方などを学びはじめ、各自がテーマを絞って、4年生で論文を仕上げる。「『算数が好きになるにはどうしたらいいか』では、卒論のテーマにはなりません。好きってどういうこと? を学問的につきつめ、例えば、解く過程を楽しめることなのか、意欲的に取り組めることなのか、など学生の興味を絞り込めるよう、アドバイスしています」(松尾教授)。

現役教師との交流が学生の刺激に

また、千葉県には、現役の教員がスキルアップのために大学で1年間学び直せるという制度がある。この制度を利用し松尾教授のもとで学ぶ多くの教員や、ゼミ出身の現役教員と触れ合える機会も多く、学生の刺激にもなっているという。

松尾教授は、教員を目指す高校生に、向上心を持ち続けてとエールを送る。「私の指導は学生にとってはかなり厳しいようです。でも、未来を担う子どもたちの先生になりたいならば、厳しさを乗り越え、子どもたちのために頑張りたいという強い気持ちを粘り強く持ち続けてほしいと願っています」。

 

 先輩に聞く
大学院 教科教育科学専攻(理数・技術系)卒業
比留間陽子さん(東京・共立女子中学高等学校出身)
両親が教師だったこともあり、小学生のころから、将来の夢は先生になることでした。その頃の得意科目は国語。実は中学までは数学が苦手だったんです。
でも、高1で出会った数学の先生の授業がとても面白くて。数学の考え方が日常生活にあふれていることを教えてもらい、目からうろこでした。その時の感動を子どもたちにも伝えたくて、中学校教員養成課程の数学科選修に進学しました。
大学での授業で印象に残っているのは、やはり模擬授業ですね。立ち振る舞いや目の配り方など、授業をうまく進めるためのヒントもたくさん学びました。大学院に進んだことで、中高生の数学だけに関心があった私が、幼児からの数学教育にも興味を持つなど、視野もぐんとひろがりました。
 春から教員として働き始めます。数学が苦手だった私だからこそ、教えられることがあると思っています。そしてなにより、数学の面白さを生徒たちに伝えたいです。



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