電磁浮遊実験で空中に浮遊している高温金属

特殊な環境のもと、
未知なる材料を研究・開発

私たちの生活になくてはならなくなりつつあるスマートフォン。普及し始めたのは15年ほど前だが、それ以前にも技術的には今の製品に似たものが作れたはずだ。

「ただしそれらは、性能が低かったり、持ち運べないほど大きかったりしたはず。新しい機能・特性をもった材料が開発されたからこそ、今のスマートフォンとして製品化されたのです」と千葉工業大学 工学部 先端材料工学科の小澤俊平准教授は話す。

スマートフォンだけではない。超高層建築の東京スカイツリーやハイブリッドカー、EVなど、あらゆるモノの進化・実用化は材料の進化によってもたらされたといっても決しておおげさではない。ではこうした先端材料はどうやって開発されるのだろう。

焼結や鋳造といった従来の方法も、以前とは比べものにならないほど進歩・洗練されている。また、一方でブレークスルーのために、従来とは違う新しい材料技術の開発も進んでいる。その方法のひとつが、特殊な環境を利用した材料開発だ。

例えば国際宇宙ステーションなどの無重力環境では、材料を空中に浮かせた状態で融解・凝固させることができる。これを地上で実現するのが、電磁力によってモノを浮かせる「電磁浮遊法」。小澤准教授の研究室ではこの方法を使った「過冷却」による材料の開発に取り組んでいる。

「ある材料の温度をいったん高温にして溶かし、徐々に冷却するとします。温度が融点まで下がると普通なら凝固しますが、容器を使わず、空中に浮かせた状態では液体のまま融点以下まで冷却される。これを過冷却といいます」と小澤准教授は説明する。「過冷却が起こるのは、材料が空中に浮いていて、通常なら凝固のきっかけとなる壁=容器がないため。ある程度まで温度が下がると振動などのきっかけでパッと固まり、いままでにない新しい材料ができることがあるのです」

現在、こうした方法で開発を進めているのが鉄+酸素+ランタノイド(原子番号57から71、ランタンからルテチウムまでの15の元素の総称)を過冷却することによってできるマルチフェロイックという材料だ。「ハードディスクの特性である強磁性と、USBメモリの特性である強誘電性の両方を持つため、メモリの記憶容量が増大し、さらにアクセス時間が短いという利点をもった次世代のメモリデバイスの材料として期待されています」と小澤准教授。

一方、研究プロセスに関する基礎実験にも取り組んでいる。先端材料の研究・開発に不可欠なコンピュータシミュレーションには、超高温で液体になった材料のさまざまな物性データのインプットが必要になるが、なかでも測定が困難なのは表面張力。材料を容器の上に置いて高温で溶かす従来の方法では、材料と容器とが化学反応を起こしてしまい、正確なデータが測れないのだ。

「実はこの問題も電磁浮遊法で解決できます。高温で液体になった材料が空中で球状になり、プニプニと振動する。その振動数から表面張力を計算することができるのです」(小澤准教授)

より正確な表面張力のデータの測定は、材料の特性の解明にもつながる。こうした研究も材料工学の一分野なのだ。

なお小澤研究室では、現在JAXAと共同で国際宇宙ステーションでの実験にも参加。電磁浮遊法の理論式と宇宙での無重力実験の結果との比較などを行っている。

 

金を探して
プラチナが見つかる
“宝探し”のような研究

電磁浮遊法での先端材料開発について「同じ物質の組み合わせであっても、空中に浮かせて作るだけで違う特性を持った材料になる可能性があります。予想通りの実験結果にならないことが多い一方“金を探していたらプラチナが見つかった”というような幸運もまれにある宝探しのような研究です」と話す小澤准教授。装置を手作りし、素材や条件を変えて日々実験・解析に取り組む研究室の学生たちを「大発見というのはたいてい失敗から生まれるもの。突拍子もない発想でも自由にやらせています」と温かく見守る。

さらに「材料がなければどんな製品も作ることができません。新しい材料の開発は新しい技術・新しい世界が拓けることにつながる。それが材料工学の魅力です」と工学を志す高校生にメッセージをくれた。

お話を聞いた先生! 

            小澤 俊平 准教授
              工学部先端材料工学科

 

 

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