シンポジウムに登壇した(左から)松尾清一・名古屋大総長、中井勝己・福島大学長、室伏きみ子・お茶の水女子大学長、片峰茂・長崎大学長

国立大はどんな改革に取り組んでおり、大学を目指す高校生に何を期待するか──。国立4大学の学長らがこんなテーマで語り合うシンポジウム「日本の教育改革における国立大学の役割」(国立大学協会主催)が10月24日、東京都内で開かれ、大学の教職員や学生、高校教員など292人が参加した。

推薦・AOを35%に
●名古屋大

名古屋大学の松尾清一総長は「人類の幸福と社会の持続的発展に貢献する『勇気ある知識人』」を育てることを目標に改革に取り組んでいることを紹介。海外留学する学生が学部と大学院をあわせ1000人を超えており、「学部学生全員を卒業までに一度は留学させたい」と語った。入試改革も進めており、推薦やAOなど新たな入試の定員比率を現在の17%から35%まで引き上げる方針という。

復興への課題に立ち向かう
●福島大

福島大学の中井勝己学長は「東日本大震災からの復興は道半ばであり、課題に立ち向かう学生を育てたい」と語る。学生の災害ボランティア団体に300人以上が登録しており、「被災地で学びたい」と県外から進学する学生もいるという。

課題解決に取り組む「プロジェクト学習」に力を入れており、地域の課題を見つけ、住民と解決の糸口を探るプログラム「ふくしま未来学」もその一つ。「文献から知識、技能を習得することも、現地で五感で感じとることも大切。本当の『豊かさ』を地方の大学で学んでほしい」と高校生に呼び掛けた。

失敗恐れず挑戦を
●お茶の水女子大

お茶の水女子大学の室伏きみ子学長は、図書館でのリポート作成や討論などを組み込んだ新しいAO入試について「評価する能力を向上させて、よりよい入試を確立したい」と話した。

現在の学生は「まじめで心優しい」などと評価しつつも「与えられた枠の中で満足してしまう学生が増えている」と指摘。同大を目指す高校生にも「社会環境の大きな変動にも対応できるよう、探究力と失敗を恐れず挑戦する姿勢を身に付けてほしい」などメッセージを送った。

地域課題から世界が見える
●長崎大

長崎大学の片峰茂学長は「地域の課題を掘り下げることで、世界(の課題)が見える」と強調。放射線健康リスク管理、感染症対策、次世代エネルギーといった、同大の世界に発信する研究を挙げた。核軍縮の研究にも長年取り組んでおり、今年5月のオバマ米大統領の広島訪問時には、長崎大の学生も招かれたという。

当日は大学生も参加。ある学生は、大学が教育改革を進める一方で「就職活動では勉強よりサークル活動のことを聞かれる」と企業側の問題を指摘した。司会を務めた東京大学4年の堀菜保子さんは「学生も4年間、どのように学ぶかという自覚が必要と感じた」と話した。

 新テストに記述式を入れる理由は? 

シンポジウムでは、鈴木寛・文部科学大臣補佐官が講演。国が進める教育改革や入試改革などについて説明した。

講演した鈴木寛・文部科学大臣補佐官

AIに代替されない人材育てる

人工知能(AI)によって失われる仕事があると盛んに言われることについて、AIに代替されないのは、他者の理解や協調、説得や交渉などが必要な職業だと指摘。「人工知能が解を出せない『板挟み』や『想定外』の状況を乗り越えられる人材」を育てることが必要とした。

こうした考えから、高校でも自ら課題を設定して研究する探求学習を増やす方針を説明し、暗記科目と誤解されがちな高校の歴史も「思考科目に変えていく」と語った。

文科省はセンター試験に替えて2020年度から始める新しい共通テストで、記述式問題を含めることを検討している。鈴木補佐官は「大学教育を受けるにあたって最も重要なのが言語能力なのに、大学生の記述力が落ちている。新しいテストでは記述力をしっかり見るというメッセージを出したい」と話した。その後の討論でも「(誤りや失敗を良しとしない)減点主義の考えが過剰に行き渡ると、今後の試行錯誤の時代を生き抜けない」と語り、記述式は「加点型の評価」にする考えを示した。