積極的な歩きが持ち味の矢来舞香

高校入学後に競歩を始めた矢来舞香(兵庫・県西宮3年)の努力が開花しつつある。昨年は世界ユース選手権10位で、今年は5月の世界競歩チーム選手権のジュニア日本代表に選ばれた。将来性が期待される矢来は、インターハイの5000メートル競歩に「優勝すると決めている」と強い気持ちで挑む。(文・写真 中尾義理)

「才能より努力」練習に没頭

「私には競歩がある」。矢来にはそんな強い自負がある。

中学で陸上競技の800メートル、1500メートルに取り組んでいた矢来が進学したのは、2004年アテネ五輪と08年北京五輪の女子マラソン代表を輩出し、女子中長距離界では知られた県西宮。レベルの高い先輩やチームメートとの走力差に悩んでいた高1の4月、顧問の高橋秀興先生に競歩を勧められ、自分の居場所を見つけた。

走りでは通用しないから歩く。そんな甘い考えで種目を選んだわけではない。前に出した足の膝が曲がってはいけない、足のいずれかが必ず接地していなければならないなど、厳格なルールにのっとって力強く歩く選手を見て、「どうしてあんなに速く正確に歩けるんだろう」と最初は感じたという。

しかし、いざ競歩の歩き方を体験してみると、「競歩は才能よりも努力が成長につながる種目。コツコツと練習すればいい結果が出せるかもしれない」との思いが湧き、競歩に没頭した。

「攻めて歩く姿勢」海外選手に見習う

正確なフォームを身に付け、リズム感のいい歩きで記録が伸びた。2年時にはアメリカで開かれた世界ユース選手権に出場。8位入賞をあと一歩で逃したが、矢来の視線が世界を向く大きなきっかけになった。

高橋先生が「トラックを回るより、変化のあるロードの方がリズムよく歩けるようです」と指摘するように、矢来もロードレースの方が得意と言い切る。そのロードで行われた4月の日本選手権ジュニア10キロで48分8秒をマークして、高校生最上位の3位に。この成績で世界競歩チーム選手権の代表に選ばれた。

同選手権ではリオデジャネイロ五輪の陸上日本代表と同じユニホームで10㌔に出場し、48分50秒で21位。「もう少し長く先頭集団に食らいつきたかった」と後悔もあったが、「海外の選手はレース直前でもとてもフレンドリーに話して、リラックスしていました。そしてレースが始まると、力強くぐいぐいと攻めて歩く。見習わないとな、と思いました」と得たものも多かった。

「競歩に出会えたのは奇跡」

身長153センチと小柄だが、腕を大きく強く振って推進力をつくるフォーム。歩型違反の警告3回で失格になる競歩で、警告を受けることはほとんどない。

当面の課題は「ラストスパートしたときのスピードチェンジ」。5月の県総体では、チームメートの森口愛子(3年)に負けてしまったが、森口のラストスパートに対応できなかったことが原因だった。

「疲れても耐えることはできるので、最初から飛ばし気味でいった方がいいかもしれない」と言いつつ、「スパートも鍛えたい」と弱点を一つずつ克服しようとしている。

それでも、6月の近畿地区予選は23分41秒10で優勝。インターハイ5000メートル競歩の優勝候補の一人として、本番へ弾みをつけた。インターハイでは普段から切磋琢磨(せっさたくま)する森口や、開催地・岡山の則本菜々子(岡山東商3年)らがライバルだ。

ただ、「インターハイでの目標は優勝ですが、一つの通過点。将来は(五輪種目の)20キロ競歩で強くなり、東京五輪で活躍することを到達点にしたい」ときっぱり。

「競歩に出会ったことは奇跡やなと思います。私に競歩がなければ、東京五輪に出場するという夢を持てていなかったはず」。道は平らとは限らない。試練もあるだろう。それでも矢来は、努力の力を信じて歩き続ける。

積極性が持ち味の矢来。同じチームの森口愛子(右)とともに優勝候補だ
やぎ・まいか
1999年1月21日、兵庫県生まれ。御殿山中卒。中学で陸上競技を始め、800メートルと1500メートルに取り組む。高校2年時に5000メートル競歩で世界ユース選手権10位、インターハイ7位。今季は世界競歩チーム選手権のジュニア日本代表に選ばれ21位。自己ベストは5000メートル競歩23分16秒11、10キロ競歩48分8秒。153センチ、41キロ。