【高校生記者インタビュー】小さな一歩が世界を変える ユニセフ東京事務所代表 平林国彦さんに聞く

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 世界では今なお、毎日約1万6000人の5歳未満の子どもが命を落とし、約5900万人の子どもが小学校に通えずにいる。このような状況の中、世界中の子どもたちの権利が守られるように支援しているのが国際連合児童基金(ユニセフ)だ。東京事務所代表の平林国彦さんに、高校生記者がインタビューした。
(聞き手・加藤日向、多和田萌花、前田黎、若山美月)

 ひらばやし・くにひこ 1958年、長野県生まれ。筑波大学医学専門学群卒。医学博士(筑波大学)。約10年間、国立国際医療センター国際医療協力局に勤務し、途上国の病院での技術指導などを行う。2003年からユニセフ勤務。アフガニスタン、レバノン、東京事務所での勤務、インド事務所副代表を経て2010年から現職。

子どもの援助最優先に

──ユニセフは、どんな活動をしているのですか。

平林 1989年の国連総会で採択された「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」に基づき、世界中の子どもたちが自らの能力を発揮できるように保健、栄養、水・衛生、教育などのさまざまな領域で支援しています。

 子どもの権利というと、飢餓や病気に苦しむ子どもたちの「生きる権利」をイメージするかもしれません。でも、この条約では「自分らしく育つ権利」「あらゆる種類の虐待などから守られる権利」「自由に意見を表したり活動したりする権利」なども守るように定めています。日本の子どもたちにもこれらの権利が保障されています。しかし、先進国においても、全ての子どもがこれらの権利を享受できているわけではありません。

 ユニセフはこうした現状を踏まえ、子どもの問題を最優先に考えてもらえるように、さまざまな国・地域の政府などに働き掛けています。

信頼築く力が必要

──ユニセフで働く人の仕事内容を教えてください。

平林 ニューヨークの本部の職員は、困難な状況にある子どもたちの問題を解決する手法を考えるとともに、世界中の人々に子どもたちの問題を伝えていく役割を担っています。

 約150の国・地域にある現地事務所では、政府や現地NGOなどのパートナーと共に、子どもたちやその家族を支援しています。また、子どもたちの現状についてのデータを集め、子どもたちの生の声が分かる映像などを政府の人々の元に届けることで、子どもたちの権利が守られるように推進するのも大切な仕事です。

 私がいる東京事務所は、日本と韓国の政府や関係団体などに働き掛け、政府開発援助(ODA、国際協力活動のための公的資金)によって行われている事業が、世界各地のユニセフの支援活動とうまく連携できるようにするのが主な仕事です。

──ユニセフで働くには、どんな力が必要ですか。

平林 各国の政府などの人々と粘り強く交渉する力と、信頼関係を築く力ですね。現在は、難民問題やテロ対策、感染症対策など、一つの国だけでは解決できない問題が増えているので、全ての問題を自分に直結することとして考えることも重要です。

 英語は必須で、話すだけではなく、書く力も求められます。

大切なのは継続的な支援

──途上国には、特にどのような支援が必要なのでしょうか。

平林 世界全体の平均値をみると、極度の貧困にある人々の数は減少したのですが、国ごとの格差、また一つの国の中でも地域や男女の間の格差はむしろ広がっていて、貧しい人はずっと貧しいままというのが現状です。

 十分な食べ物が得られない環境で育った母親から生まれた子どもも栄養失調で苦しむという悪循環を断ち切るには、子どもの支援のみを行うのではなく、出産前の段階から母親の栄養・保健・教育なども充実させなければなりません。メディアではなかなか報じられない、忘れられがちな国の支援にこそ力を入れていく必要もあります。

──支援で大切なのはどのようなことですか。

平林 継続的な支援を行うことです。今日やっている支援が明日はできないというのでは駄目なんですね。そこで、ユニセフはさまざまな団体や企業に働き掛け、困難な状況にある子どもたちのことを世界中に発信する活動に協力してもらうとともに、資金や人材などの面でのサポートを得ることで継続的な支援ができるようにしています。

──仕事をする上で、どのようなことを心掛けていますか。

平林 依然として困難な状況に苦しむ子どもたちがいる原因は、人々の「無関心・無責任・無行動」にあるのではないでしょうか。「微力」と「無力」の間には大きな差があり、一人一人の力が集まれば世界は変えられます。ですから、「どのようにすれば人々の関心を引き、責任を持って行動を起こしてもらうことができるか」を考えて仕事をしています。

──ユニセフで働いていてよかったと思うことは何ですか。

平林 「子どもたちを守る」という使命が明確で、自分のやりたいことと一致している点です。

 私はもともと心臓外科医だったのですが、内戦と飢饉(ききん)に苦しみ餓死寸前の状態にある女の子の写真を新聞で見た時に「こういう子どもを助ける仕事がしたい」と思い、転職して今に至ります。「人の命を救いたい」という願いをかなえるには、必ずしも自分は心臓外科医である必要はなく、ユニセフのような国際機関で働くという道もあると思えたんですね。

「皆さんも世界を変えられます」と語る平林さんを囲んで

高校生の強みは斬新な発想

──高校生にもできる国際支援はありますか。

平林 大人の事情に縛られず、正しいことを素直に正しいと言えるのは若者の特権です。支援活動では経験の有無よりも、新しい視点からアイデアを出せることが大切で、大人よりはるかに斬新なアイデアを出せる可能性を持っているのは皆さんの大きな強みです。

 米国では10代の少女がSNS上でのいじめをなくそうと、ユーザーが誰かの悪口を書き込もうとした時に「本当に投稿しますか?」というメッセージを表示する仕組みを考え出したことで、ネットいじめが減ったといわれています。自分の身近にある問題を解決しようと行動することが、世界を変えることにつながっていくのです。

──高校生へのメッセージをお願いします。

平林 私たちが昨年行った調査によると、対象とした日本の15歳から18歳の若者の9割近くが社会問題に関心を持ち、そのうち4人に1人は何らかの行動を起こしていることが分かりました。これはとても素晴らしいことです。

 皆さんが一歩を踏み出すことが、日本を、さらには世界を変えることにつながります。いろいろなことを見聞きして、まずは小さなことからでよいので、周囲の人々を巻き込みながら行動を起こしてください。そして自分が好きなことをとことんやってみて、目指す方向が一致するのであれば、国際機関で働くことも選択肢の一つとして考えてみてほしいと思います。

(文・安永美穂、写真・野村麻里子)

 国際連合児童基金(UNICEF) 国連総会の補助機関の一つ。第2次世界大戦で被災した子どもの緊急支援を行うため1946年に設立され、現在は世界中の子どもたちの支援を行う。UNICEFの呼び名は、設立当初の名称「国際連合国際児童緊急基金(United Nations International Children s Emergency Fund)」に由来。現在、約150の国・地域に350以上の現地事務所を有する。本部はニューヨーク。1万2678人の職員のうち、専門職以上の日本人は88人いる(2016年4月時点)。

(高校生新聞 2016年5月号から)

高校生記者



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