貴重な全体練習。高い集中力で長時間の練習に打ち込む

 

部員175人による一糸乱れぬ行進と、金管楽器、打楽器、フラッグなどが織りなす圧巻の演奏・演技。神奈川・湘南台高校吹奏楽部は、マーチングバンド全国大会(高校の部・大編成)で2年連続グランプリを受賞した全国屈指の強豪バンドだ。
(文・青木美帆、写真・幡原裕治)

できることをやる

10月28日午後3時。神奈川県立体育センター体育館に横付けされた4トントラックから、部員たちが楽器や器材を次々に運び出す。この日は、10月唯一の全体練習だ。
 マーチングには約30メートル四方の広いスペースが必要だが、校内にそのような場所はない。公共施設の大きな体育館を借りられるのは、多い月でも3、4日。それ以外は金管楽器、打楽器、カラーガードなどのパートごとの練習を、学校の教室や中庭で行うしかない。
 しかし、そんな環境を部員たちはものともしない。指揮者に当たる「ドラムメジャー」の藤田胡桃さん(3年)は「体育館練習が少ないことが、逆に演技の緻密(ちみつ)さにつながっている」と話す。「パート練習に時間を割いて、細かい課題を解消できるからです。『できることをできるところでやる』ことの積み重ねの成果が、大会で発揮されるのだと思います」

1、2センチのズレを修正

4時過ぎ、練習開始。各パートの講師が体育館に到着すると、和気あいあいと準備を進めていた部員たちの表情がすっと引き締まった。
 マーチングでは、動きの乱れが大きな減点材料になるため、練習で細かい確認を何度も繰り返す。例えば「コマ付け」と呼ばれる動きの練習では、1〜2小節の動きを繰り返し、わずか1、2センチのズレを修正していく。
 この日の練習が終わったのは夜8時。4時間、部員たちは器具を持って、立ちっ放し、動きっ放しだ。それでも終始、叱咤(しった)激励し合い、講師の指示に力強く返事をし続けた。この並大抵ではない集中力こそが、湘南台高校の強さの秘密の一つだ。

 
  本気の姿勢と明るい雰囲気
顧問 羽場弘之先生

  練習は他校とさほど変わりません。違うのは、175人の部員全員が、同じ気持ちになって動きを合わせようと本気で取り組む姿勢です。軍楽隊がルーツのマーチングは、部活の雰囲気も厳格になりがちですが、湘南台高校の吹奏楽部は自由で明るい。(大会で)練習場所が隣になった、ある強豪校が部員たちの様子を見て驚いていたくらいです。

 
  基本と自主性を大切に
部長 山川桃加さん(3年)
 マーチング未経験の入部者が多いこともあり、基本を重視しています。4月には全員で基礎練習に取り組み、マーチングの基本である62.5センチの歩幅を体に染み込ませます。部では、誰かに言われたからではなく、「自分がやりたいから頑張っているんだ」という意識を大切にしており、だからこそ結果が出るのだと思います。
 
部活データ1998年、吹奏楽主体だった部がマーチングに特化し再始動。部員175人(各学年55〜60人)。マーチングバンド全国大会2年連続グランプリ、ジャパンカップ(高校マーチングバンド部門)9連覇。昨年の夏、ももいろクローバーZのライブに出演し、ももクロの人気曲をマーチングで披露した。演奏・演技の動画も見られる部公式サイトはhttp://wss1998.com/